時計






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夢の中の幻想に思いをめぐらせながら目を閉じる。
そして夢の中へと還って行く――
うつらうつらしていると“じぼ・あん・じゃん”と激しく哀しく鳴り響く柱時計の音が聴こ
える。いつかの恋人(現実の女なのか)に寄せた行き場のない情熱を感じながら、朔太郎は
長椅子に身を沈める。

すべては夢に終わる。
編み物をする娘も猫もいない。
これらは古い物語のように過去に消え去ってしまった。
彼は只、“始めから疲労した長椅子の上に絶望的の悲しい身体を投げ出している”のである。

私はこの詩を読んで壮大な交響曲を聴き終えた感じに似ていると思った。
一つの壮大な物語が終り、その余韻に身を委ねながら彼はまた夢想への旅を続けるのかもし
れない。

「蝶を夢む」に始まり、「時計」で終わる。
すべては“古い空家の中”での出来事だったのかもしれない。




古いさびしい空家の中で
椅子が茫然として居るではないか。
その上に腰をかけて
編物をしてゐる娘もなく
煖爐に坐る黒猫の姿も見えない
白いがらんどうの家の中で
私は物悲しい夢を見ながら
古風な柱時計のほどけて行く
錆びたぜんまいの響を聽いた。
じぼ・あん・じやん! じぼ・あん・じやん!

古いさびしい空家の中で
昔の戀人の寫眞を見てゐた。
どこにも思ひ出す記憶がなく
洋燈の黄色い光の影で
かなしい情熱だけが漂つてゐた。
私は椅子の上にまどろみながら
遠い人氣のない廊下の向うを
幽靈のやうにほごれてくる
柱時計の錆びついた響を聽いた。
じぼ・あん・じやん! じぼ・あん・じやん!

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by autre_moi5 | 2012-05-08 14:57 | 青猫
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