蝶を夢む
座敷のなかで 大きなあつぼつたい翼をひろげる 蝶のちひさな 黒い顏とその長い觸手と 紙のやうにひろがる あつぼつたいつばさの重みと わたしは白い寢床のなかで目をさましてゐる。 しづかにわたしは夢の記憶をたどらうとする 夢はあはれにさびしい秋の夕べの物語 水のほとりにしづみゆく落日と しぜんに腐りゆく古き空家にかんする悲しい物語。 夢をみながら わたしは幼な兒のやうに泣いてゐた たよりのない幼な兒の魂が 空家の庭に生える草むらの中で しめつぽいひきがへるのやうに泣いてゐた。 もつともせつない幼な兒の感情が とほい水邊のうすら明りを戀するやうに思はれた。 ながいながい時間のあひだ わたしは夢をみて泣いてゐたやうだ。 あたらしい座敷のなかで 蝶が翼をひろげてゐる 白い あつぼつたい 紙のやうな翼をふるはしてゐる 蝶、生と死、羊水の中(母性)、エレナ、女の裸体、白い紙のような翼を 震わせている蝶。『定本青猫』の序章。季節は秋。 憐れにさびしい秋の夕べの物語。 水のほとりに沈みゆく落日と自然に腐りゆく古き空き家に関する悲しい物語。 夢想家の夢。この詩から朔太郎の夢想と現実が入り混じった”旅”へと向かう。 「腐りゆく古き空き家に関する悲しい物語」が始まる。 白い花や蝶は”死”を思わせる不吉なものだとされているが、これらのものに 朔太郎は自分を見ていたのかもしれない。
by autre_moi5
| 2008-04-12 01:09
| 青猫
|
カテゴリ
全体青猫 news about Blog フォロー中のブログ
φ - fai -Bateau de Te... Night Flight... その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||